Jock Zonfrillo

Koji and coにとって、とても大切な人が突然この世を去って、1週間が経つ。

シェフであり、『MasterChef Australia』のメインキャストであるJock Zonfrillo。彼はテレビの中のスーパースターであり、でも現実に、私に極めて大きな影響を与えた人である。

与えた、と過去形で語れば、それは嘘になる。私はおそらく永遠にJockの存在を忘れることはない。

 

 

Jockが私に初めて連絡をくれたのは、2020年の2月のことだった。白麹の米麹を買いたいということ、そして取りに行くから話しを聞きたいとのことだった。

当時借りていたキッチンをJockが訪れたのは2020年2月25日のこと。

私は、その日にJockと話したこと、そしてその後に電話で彼が言った言葉の一つ一つをを何度も反芻している。

私がJockに会った日は、彼にとっての初回の『マスターシェフ』の放映直前だった。だからその時はまだ、テレビの中のスーパースターというよりも、アデレードでOranaという、とても有名なレストランのオーナーをしていた人、というのが私の認識だった。

Jockは、あらゆる種類の味噌、塩麹、そして甘酒を試食しながら、とても気さくにいろんな話しをしてくれた。2時間ほどの間、話しは尽きなかった。

初めからJockは、麹をつくる工場を建てるにはいくらの費用がかかるのか、それを一緒にやろうよと言った。そして、それまで彼がオーストラリア原住民のコミュニティに触れ、そこで体験した原住民の食文化と、麹づくりを含む日本の食文化は大いに類似点があると指摘していた。

オーストラリアの原生の植物、Bunya nutsで味噌を作ろうよと言った。クロコダイルやモートンベイバグといったオーストラリアの食材で、ガラムを作ろうよと言った。

 

Jockは、私が作った白麹の甘酒を食べて、『This is the best food I have eaten this year.』と言った。それがまだ2月のことだったと差し引いても、私は天にも昇る思いだった。だから私は、マスターシェフを観ていて、賞賛の言葉をもらったコンテスタントが涙する時、私は共に涙する。私は、Jockが全身で美味しいと表現する時、その賞賛を受け取る人の喜びを感じ、心が震える。

 

昨晩の追悼番組『A tribute to Jock Zonfrillo』では、世界的なビッグネームの面々に改めてJockの遺した影響力を感じるものだが、そのなかで誰かが、Jockには出逢った人を男女問わず、”have a crush on him”(夢中にさせる)魅力があるとコメントしていた。それがまさに、私に起きていることの真実だと思った。

私はJockと出逢って、彼に一目惚れして夢中になっている人間のひとりだ。そこに見出されるのはパッションであり、Foodを通じて、この世の中をより良い場所にできるというような確信 - 私は、その想いをJockと共有していると感じている。

 

その後も、時折Jockは電話やメッセージをくれていた。

度重なるロックダウンから、徐々に世の中が動き始めた頃にも、電話をくれた。もうその頃までには、Jockはテレビの中のスーパースターになっていた。

麹や味噌を作っているのか?レストランにばかり売っているのか?なぜわざわざファーマーズマーケットで売ろうとするの?麹や味噌をたくさん作るにはどうしたら良い?・・・Jockはそんな質問をした。

そして、もう1年以上前になるが、Jockは最後にくれた電話で、こう言った。

『パートナーとして、どこかに麹の工場を建てて、味噌をたくさん作って売ろうよ。それでマスターシェフで、味噌をどうやって使うのか見せようよ』と。

Jockが紛れもなくそう言ったことに対して、私は驚嘆していた。Jockは、パートナーシップについては、君が言いたければ言えばいいし、言わなくたっていいとまで言った。

 

 

 

昨晩のマスターシェフを観て、改めて気付かされたこと。
自分のルーツや文化的遺産の表現として、食べ物を作ることがいかに人の心を動かすか。

昨晩のエピソード1だけでも、なんと多くのメッセージが盛り込まれているのだろうと驚くが、文化的な遺産を継承すること、そこに誇りを持つこと、とりわけオーストラリアという地において、これは極めて重要なことだと改めて認識する。

誰かのために料理する、そこにあるハートが何よりも大事なものである、これが最大のメッセージだと思った。それが、Home cookingなのだ。 

 

Jockの突然の死のニュースを聞いてから、私はこの1週間、泣き続けている。

私はJockと出会ってから、彼が実際に手を差し伸べてくれるのを、ずっとずっと密かに待っていたのだと今ようやく気付かれる。
来週コーヒーを飲もうよと言われてから1年以上経つが、その日をずっと受け身で待っていたのだ。

私がKoji and coとしてやろうとしていること、これは私にしかできない事だと分かった上で、Jockは私にその道を照らしてくれていたのだ。

そして、その光は永遠に消えることはない。

 

Andy Allenが追悼番組で、『Jockは父親になるとはどういうことか、身を持って教えてくれた。キミもいずれ良い父親になるだろうと言ってくれていたが、自分が父親になった姿をJockに見て欲しかった』と泣いていた。私は、この気持ちに心底共感して、涙が止まらない。

Jockが導いてくれたこと、それを目指そうにも、その時にそこにJockはいないという事実はいまだに受け入れ難い。

 

今は悲しみの中にあるけれど、彼の想いはそれぞれのハートの中に生き続ける。Jockを亡くして、私はこのことを強烈に感じている。

 

最後に。
Jockが私を訪れた少し後に、MasterChefで流れたこのビデオ。私は、ここでJockが言っている'A jar of weird Japanese sauce'とは、私がつくった甘酒なのではないかと密かにずっと思っている。

Meet MasterChef Judge, Jock - Unseen: Jock Zonfrillo's addicted to food, passionate about flavour and excited for his role as MasterChef judge at https://10play.com.au/masterchef/exclusives/season-12/meet-masterchef-judge-jock/tpv200413jcqwd

Back to blog

Leave a comment

Please note, comments need to be approved before they are published.